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本を読む日々の身辺雑記


by aokimugi

もの食う人びと

先日、雨の日に久しぶりに部屋でだらだら過ごしていて、
何気なくテレビを着けたら
国会の予算会議の生中継をやっている最中であった。
靖国神社参拝問題で各党から質問(・・・というよりやめるべきだという抗議)を叩きつけられた
小泉さんがぼそぼそととても論理的とは思えない回答を繰り返していた。

えんえんと続く国会中継と、しとしとと振り続ける雨音をバックミュージックに
辺見庸の『もの食う人びと』を読んだ。

これはずっと気になっていたのに読んでいない数々の本のうちの一つだったのである。
高校2年生くらいのときだったか、新聞の書評で見て以来
「いつか読まなければ・・・。」と思ってかれこれ5年あまり。
う~ん、よく覚えていたもんだ。(笑)



「食う」ことから見た人の「生」。
その視点からは、政治体制や経済の有様、自然環境、戦争、民族、宗教、歴史・・・それらを丸呑みして生きている強烈な個人の顔が見える。
この本はものを食う人の姿に執拗に拘って書かれた筆者の彷徨にも似た取材の記録である。

ミャンマーの軍事政権に迫害された難民たちの国連の配給食料による食事
チェルノブイリの放射能汚染された森のきのこのスープを日々食べて暮らす地元の農民のおじいさん
クロアチアの田舎の漁村で砲弾を掻い潜って漁をし、新鮮な鰯をほおばる漁師のおじさん
フィッシュ・アンドチップスが好物な王様
ミンダナオ島の山中深く歴史の闇に葬られた日本兵の「食」
ポーランドの炭鉱で食べた人生最高のスープの話・・・

どこに暮らすどんな人であろうとも人は日々ものを食って生きている。
その当たり前の事実には、「生きる」ということの重みが詰まっている。
ひとつの話を読むたびに私の胸の奥にその重みが投げかけた波紋が広がっていくようであった。
ソマリアの内戦で痩せて枯れ木のようになった少女、ドイツのケパブ屋さん・・・漁師、修道士、おばあさん・・・。
しばらくの間、忘れられないだろう。

時々本から顔を上げると、口先ばかりで話している国会議員たちの声が聞こえてきた。
もう少し、腹に届く内容を話して欲しいものだと
たくさんのものを抱え、食べ、そして生きている人々の話を読みながら思った。


もの食う人びと』 (辺見庸・角川文庫)
by aokimugi | 2005-06-05 05:24 | 小説・ノンフィクション